アベノミクスの成績表

[経済]

アベノミクス劇場が開幕して1年。その成績表。安倍、黒田のコンビで世界から注目を浴びているが、まだ結果は未知数。卒業できるかどうかもわからないし、下手をすると退学になるかもしれない。だから中間成績表。

まずアベノミクス三本の矢のうち、”金融”は大成功だった。身分不相応な円高を脱却し、日経平均株価は1年で倍になった。滑り出し上々。世の中もすこし明るくなったように思う。

第二の矢は”財政”だが、もともとアベノミクスの目的は、経済成長によって、財政赤字を縮小することにある。財政政策は避けて通れないのだが、1年目は先延ばし。安倍内閣は、この8月、中期財政計画閣議決定しているが、その内容は民主党内閣の閣議決定をそのまま採用した。いわば試験を受けなかったのと同じ。内容は、2015年までに基礎的財政収支(Public Balance)の赤字を半減し、2020年までに収支均衡させようというもの。

だが、この計画、民主党時代はだれも実現すると思っていなかった。その点、アベノミクスでは、多少の改善があった。円安や株高により、企業収益が改善し、法人税等の増収が確実になり、国債の新規発行なしに、補正予算を組むことができるようになった。ただしあくまで今年度についてのみの改善である。
 補正予算=來年度予算が国会で決定する前に来年度経費を支出する予算

しかし肝心の赤字削減方法は煮詰まっていない。特に最大の支出項目である社会保障費の削減は、相当きびしいものになるはずだが、断片的な政策が論議されているだけで、全貌がつかめない。まず”物価”と”経済成長”で必要な削減規模をきめようということだろう。

第三の矢は”成長戦略”。日本の経済は既得権でがんじがらめになっている。それをはずしてやれば、成長分野が開拓できる。いわゆる規制緩和政策だが、TPPを含めて、これも現在検討中。成績はつけられない。

しかし、三本の矢とは別に、アベノミクスは早くも関門に差しかかった。それが突破できなければ退学である。経済成長に対する”消費税”のマイナス効果をどう対策するか?

この秋、安倍首相は、来年4月の消費税増税3%を決断した。いろいろな経済指標を参考にしたり、多数の有識者の意見を聴いて決断したが、もっとも決定に力のあった経済指標は、4−6月の四半期GDPだったと云われる。年率換算3.8%。その前の1−3月期が年率換算4.1%。わずか半年とはいえ高成長である。日本の経済は、20年以上の期間、成長率ゼロを続けてきたのだから、安倍首相が自信を持ったのも無理からぬところだ。

だがそのあと発表された7-9月GDP(速報値)の内容が悪かった。年率換算1.9%。成長率の数字自体は決して悪くないのだが、内容を見ると、GDPの6割を占める個人消費が対前期比0.1%しか増えていない。1−3月の0.8%増、4−6月の0.6%増(いずれも前期比)と比較して、明らかに伸びが鈍ってきた。これを補ったのが公共投資の6.5%増と住宅投資の2.7%増だが、公共投資はまたまた財政赤字を増やして投資した結果だし、住宅投資は消費増税時の前喰いとも考えられる。

個人消費に元気がないのは無理もない。これまでのところ、アベノミクスは、株の臨時収入でもないかぎり、消費者には所得増をもたらしていない。そのうえ消費税が増税になり、円安による輸入物価の上昇、電力料金の値上げ、社会保障の削減など、先行きの悪さをアピールするニュースにはこと欠かない。消費者が消費を抑制しようとするのは当然だろう。

もちろん政府も楽観していたわけではない。早くから消費税ショックを和らげるために、公共投資等5兆円の景気対策を計画している。それが前述の補正予算である。

しかし割り切れない。消費税増税1%で国民には2兆円以上の税負担。3%増税で少なくとも6兆円の税負担が生ずる。景気対策5兆円では差し引き1兆円の負担増。それだけ景気が悪くなるはず。それなら6兆円の景気対策を組み、出し入れ同額にすればよいが、そこまで心配するなら、消費税を上げなければよいではないか、という疑問が生ずる。

専門家の間では、今でも賛否両論が渦巻いている。増税財務省の陰謀だという人もいれば、円の国際的信用を守るために、やはり増税が必要だという人もいる。どちらが正しいかはわからないが、ともかく首相が増税を決断したのだから仕方がない。

しかしその結果は「仕方がない」ではすまされない。もともと、増税しながら景気を良くしようという、矛盾に満ちた政策を採用しており、それを実現するために、日本列島を札束漬けにする覚悟である。貧富格差の拡大も、企業利益優先も、国民は承知の上でアベノミクスに賭けた。これに失敗し、これまでの「デフレと円高」に戻っても、あるいは「不況下のインフレ」に陥っても、もう日本には引き返す余力はない。

来年はむずかしくなりそうだ。