日本経済は再生するか、アベトクロダノミクス(2)


財政赤字に対する物価上昇の効果は大きい。黒田総裁の思惑通り、もし2%の物価上昇が10年間続けば、日本の累積財政赤字実質的に22%縮小する。累積赤字が1000兆円なら220兆円だ。消費税を増税しても、その効果は増税1%で税収2兆円である。

異次元金融緩和では、国債等を市場から買い取ることによって、通貨量(マネーベース)を2年間に2倍に増やし、物価を引き上げようとした。2012年末の通貨量138兆円に対し。2014年末の通貨量は270兆円。約束通り通貨量は倍増しているが、物価は上がらなかった。2015年2月の消費者物価指数は前年同月比2.0%プラス。この間の消費増税(日銀試算では2%強)を差し引けば、物価上昇はゼロないしマイナスだった。

原因は、消費増税による消費減少もあるし、世界的な原油安もあった。しかしもっと基本的な原因もあった。日銀が供給した通貨は、確かに倍増したけれども、それらのお金は銀行等金融機関の内部にとどまり、市場に流出しなかったのである。

銀行等の金融機関は、日銀から日銀券の供給を受け、顧客に貸し出す。だが今の日本には資金需要がない。景気が悪くて資金需要がないうえに、需要があったとしても、キャッシュリッチな大企業はお金を借りる必要がない。せっかく日銀が大量の資金を供給しても、貸出先がなければ、資金は外に出ていかない。

日銀は、銀行等から国債を買い取って、各銀行の日銀預金口座に、代金を振り込むのだが、それが口座にブタ積みになっている。市中銀行等金融機関の日銀預金口座残高は2014年末で合計178兆円である。これに対し2012年から2014年の2年間に、日銀が供給した通貨量(マネーベース)は132兆円の増加である。つまり供給量以上のお金が日銀預金口座に残されたことになる。

現金が市場に流出し、設備投資や在庫投資になり、その商品が売れて、従業員の賃金になり、家計を潤す。それでこそ消費が伸び、物価に反映する。いくら通貨を供給しても、それが動かなければ、景気はよくならないし、物価も上がらない。

“リフレ派”は、日銀が大量の通貨を銀行等金融機関に供給すれば、景気が良くなり、物価が上がると主張した。しかしどうやらこれは誤りであったらしい。

もっとも、黒田総裁は、2015年末までには、物価が上向き、2016年中に目標の2%を達成すると、期間を1年延長したが、意見を変えていない

たしかにその可能性もある。ドル高、円安が進むかもしれないし、原油価格が反撥上昇するかもしれない。物価上昇を奨励するような政府の態度に、便乗値上げする企業も多い。それでも物価が上昇しないなら、3度目、4度目の追加金融緩和という手段も残されている。

だが、物価を吊り上げることだけが目的なら、被害者は国民である。物価上昇で経済を活性化しようというのはわかるが、それは最終的に国民の福祉が向上するからだ。何が何でも物価を上げようというのは本末転倒である。

3度、4度、金融緩和をくりかえせば、円安は進むだろうが、これから更に円安を進めても、企業が海外に工場を移転してしまった現在、輸出もそんなに増えないし、逆に輸入物価が上がり、国民の生活が苦しくなる。国際的な非難もあるから、株価も円安に反応しなくなるだろう。

そこで最初の“アベトクロダノミクス”の評価基準に戻るのだが、“アベトクロダノミクス”の進行には、次の3つのケースが考えられる。

 物価が目標通り上がったうえに、それ以上に名目GDPが上がる。黒田総裁が最初にゴールとした物価2%、名目成長4%、実質成長2%のケースである。この通りならなくても、名目成長>物価なら、”アベトクロダノミクス”は成功と評価しよう。

 逆に物価>名目成長のケース。名目成長率より物価上昇率が高いから生活は苦しくなる。いわゆる“スタグフレーション”である。

 物価上昇もなく、名目成長もないケース。つまりデフレ脱却に失敗したことになる。

BとCはどちらも失敗だが、生活が苦しくなるという点では、BはCより悪いかもしれない。

“アベトクロダノミクス”が、A,B,C,のどの方向に向かうか、もう少し時間をかけないと、まだわからない。

異次元緩和2年で経済はどう変わったか

項目 緩和前 評価 緩和後
消費者物価指数 -0.5%(13年3月) やや上昇 0.0%(15年2月)
日経平均株価 12362円(13.4.3) 上昇 19313円(15.4.2)
ドル円相場 93円43銭(13.4.3) 円安 119円53銭(15.4.2)
長期金利 0.550%(13,4,3) 下落 0.335%(15.4.2)
名目GDP成長率 5.6%(13年1−2月) 下落 1.5%(15年1-2月)
失業率 4.1%(13年3月) 下落 3.5%(15年2月)
現金給与総額 274764円(13年2月) 同じ 272779円(15年2月)
地価公示価格 -0.5%(13.1.1) 上昇 1.8%(15.1.1)

(2015.4.3 毎日新聞

(続く)