日本経済は再生するか、アベトクロダノミクス(3)

もし“アベトクロダノミクス”が失敗したらどうなるのか? 体力を消耗し尽くした日本に代案があるのだろうか? そんな気持で書いているのだが、実は財務省”も“日銀”も、本気でそれを考え始めたのではないか? ここでマスコミも、学者も、誰も気が付いていない、担当者の口からは絶対に出てこない、いわば“アベトクロダノミクス”の裏側にある事実を書いておきたいと思う。


異次元金融緩和開始から2年、日銀はすざまじい勢いで、国債を買っている。図に見るように、緩和以前、日銀の国債保有残高は100兆円に満たなかった。それが2014年末には210兆円。普通国債発行残高780兆円の27%にあたる。この調子で国債を買いまくると、今年末には32%を超え、2018年ごろには(そこまで異次元緩和が続くとして)、発行残高の半分近くを日銀が保有することになる。


異次元金融緩和のお手本になった米国でも、リーマンショックから昨年秋までの5年間、FRB(日銀にあたる中央銀行)が大量の米国債を買い上げた。FRB国債保有率は、2014年末時点で、発行残高の25%。日銀と大差ないように見えるが、FRBは昨年10月に金融緩和から撤退し、今は利上げのタイミングをさぐっている。日本は金融緩和がまだ続く。

日本やEUが、いま史上最低の金利水準にあるのに、ドルだけがそこから抜け出し、高い金利をつけようとしているのだから、世界中の余剰資金が、高い金利とドルの値上がりを狙って、米国に流入することは目に見えている。そうなればFRBは手持ちの米国債を世界の投資家に転売できる。これが金融緩和の後始末、米国の“出口”政策だ。

日本はそうはいかない。まず累積財政赤字が米国より断然多い(日本はGDPの205%。米国は105%)。日銀の国債購入も、当然、相対的に米国より多くなる。それに、もともと、日本の国債金利が安い。だからこそ初めから外国人保有が少ないのだ。こんな状況で日銀の転売先が見つかるとは思えない。無理に転売しようとすれば国債は暴落する。

海外に販路を求めようとすれば金利を引き上げる必要がある。そうなれば政府の利払が増加する。なにしろ、10年債で年利0.5%程度の安い金利でさえも、支払が10兆円にもなっている。米国並みに年2%の金利を支払ったとすると、たちまち財政破たんする。税収は全部で40兆円しかない。

金融緩和の“出口”とは、これまで購入した国債の転売先を見付け、市場を正常に復することである。黒田総裁はまだ出口を考える時期ではないと言っている。しかし、常識的に考えて、日銀が購入した国債には転売先がない。言い換えれば国債は日銀の金庫におさまったまま、いわば国債の“ブラックホールになる可能性がある。もちろん日銀や財務省は、それを承知のうえで、異次元緩和に踏み切った。

こういうお伽噺(おとぎばなし)がある。
□ 政府が国債を発行して財政支出する
□ その国債を日銀が引き受ける 
□ 国債金利はゼロ。日銀の利益は最終的に政府に還元されるから、政府が日銀に金利を支払っても、また政府に戻ってくる

このやりかたを“財政のファイナンス”と呼び、財政運営上の“禁じ手”とされている。政府が国債を発行しさえすれば、日銀が引き受けてくれるのだから、お金の心配はいっさいない。国民から税金を徴収する必要さえなくなる

今の日銀はもうこれと同じことをしている。唯一の差異は、日銀法で国債の“直接引受(日銀が新規発行国債を買うこと)”が禁じられているために、いったん市中銀行等に国債を引き受けさせ、それを右から左に日銀が購入しているだけである。政府の新規国債(借換債を除く)発行が2014年間で60兆円。日銀は、これを上まわる年間80兆円以上を買い入れているのだから、“財政ファイナンス”と言われても仕方がない。

これだけ大規模に国債を購入すれば、さきほど述べたとおり、これらの国債は二度と市場に戻らない可能性がある。そうなれば、国債は返済期限まで日銀の金庫に眠り、期限が来れば、政府が日銀に額面金額を返済する。しかし返済相当の資金は、あらためて“借換債”を発行し、それをまた日銀が購入する。政府はまた、定期的に日銀に対し金利を支払うが、日銀の利益は最終的に政府に還元されるから、支払金利も政府に戻ってくる

これはもう“負債”ではない。“借金の棒引き”に等しい。だからこそ財政上の“禁じ手”とされ、IMF等の国際機関が各国を厳しく監視している。もし相手がギリシャなら、いや相手が米国であっても、絶対に許されないだろう。幸か不幸か、日本の国債には外国人保有者が少ない(5%−10%程度)ために、注意が行き届かないというか、内政問題で片付いている。

もちろん日本の政府も、“財政ファイナンス”など、おくびにも出さない。それに日本は、社会保障などお金が足りない一方だから、日銀が派手に国債を買い入れても、そんなに目立たない。さらに、もうひとつ、日本の財政には“隠れ蓑”が用意されている。それが“転換債”という仕組みである。

日本の国債60年で償還するというルールになっている。たとえば期間10年の新規国債600億円を発行した場合、10年後に返済するのは6分の1(10年/60年)の100億円だけ。残りの500億円は“借換債”を発行して借り換える。その“借換債”をやはり10年国債で発行したとすると、次の10年後にまた100億円(10年/50年)のみを返済し、残った400億円は“借換債”を発行する。これをくり返し、対象が何年債であろうと、すべて60年間で完済する仕組みになっている。

残債が、どこまでも、繰り延べられていくから、国債の累積発行残高は増えていく。しかし、本当の発行高は、増えているのか、減っているのか、全貌がつかみにくい。しかし、“新規債“”(借換債”を除いた発行高)と、日銀購入の国債金額を比べれば、何が起こっているのか、大まかな趨勢はつかめる。2014年中に発行された“新規債”は60兆円。日銀の国債購入金額は月間8兆円から12兆円。年間で日銀が100兆円を購入したとすれば、その差40兆円の国債が日銀の金庫におさまり、“借金棒引き”の対象になった。日本の年間税収に匹敵する負債金額が2年間で消滅することになる。

もっとも、実際に債務が消滅するのは、何十年先になるのかわからない。しかし、日銀の国債購入が新規債の発行金額を上回って続くかぎり、徐々に日本の実質累積赤字は減っていくはずだ。いわばシュレッダーで“大ごみ”を切り砕き、ディスポーザーに流しこんでいるようなものだ。

信じられないかもしれないが、同じ“借金”でも、国家の“借金”は民間の“借金”と異なる。国は紙幣を印刷すれば借金返済できるのだから、本来、国に“借金”というものはない。政府負債とか、財政赤字とか、云っているのはあくまでも国際的なルールによる約束ごとに過ぎない。

財務省と日銀が手を結び、“財政ファイナンス”という“禁じ手”を使い、物価を引き上げるという名目で、累積赤字を切り捨てにかかっている。そうしたとしても、だれも損をしているわけではない

頭の固い学者やマスコミは、“財政ファイナンス”と聞くと、すぐ「不健全だ、自転車操業だ」などと論評する。こんな論評は意味がない。日本の財政は、とうの昔に、財政ルール上の規律を失っている。それを健全化しようとすれば、消費税を30%以上にしなければならないだろう。その被害者は国民である。

ただし条件がある。国際的な金融世界がこの”トリック”に気付いて騒ぎ出せば、厄介なことになる。円は国際的信用を失って暴落し、本当の大インフレがくる。そうさせないためには、。日本が財政健全化に努力しているという傍証を示す必要がある。今はもうその”トリック”の成功を祈るより仕方がないのかもしれない

最後に株価について。“官製”相場と云われているが、見かけの景気を盛り上げるためにも、また低金利下で銀行や金融機関の利益を補てんするためにも、“アベトクロダノミクス”では株価を維持することが、どうしても必要だ。少なくとも、消費税増税を決定する2016年いっぱい、株式市場は“官製”を続けるだろう。ただし米国と中国の景気が悪化しないことが前提である。
(おわり)