クールジャパンに望む

[経済]

安倍内閣が”クールジャパン”運動を展開しようとしている。クールとは「カッコイイ」の意味。このところ、日本の文化が世界的な人気を集めており、もっと世界に宣伝できるし、経済的な利益にも結び付けられる。それを官民で後押ししようという運動で、アベノミックスの目玉戦略のひとつになっている。

実は、日本の文化がどれほど”クール”なのか、日本人自身がわかっていない。たとえば”和食”だが、年内にユネスコの”世界文化遺産”に登録されることがほぼ決定した。世界文化遺産といえば、今年、”富士山”が登録されて話題になったが、富士山は有形の文化遺産。”和食”、すなわち日本料理は無形文化遺産の扱いを受けることになる。

伝統的な”和食”がクールかと問われれば、日本人は首をかしげるだろうが、日本人にとって、フランス料理がなんとなくカッコイイように、外国人にとって”和食”はクールなのである。

ただし、日本の”クール”は伝統的な文化財ばかりではない。たとえば来日外国人が例外なくびっくりするのが、日本の”水洗トイレ”である。「お尻を洗う」という習慣もさることながら、節水、節電、清潔の機能に加えて、水を流す時に音楽を奏でるウオッシュレットがあるが、その目的が「消音」のためだと説明すると、外国人は一瞬絶句する。

次いで目を丸くするのがカラオケ自動販売100円ショップなど。100円ショップは、日本人の発想ではないが、店内の商品がおもしろいと言う。帰国時のみやげに、何万円も買いこんでいく外国人もいる。

漫画、アニメ、映画、ファッションなどのポップカルチュアも日本のお家芸だ。特にアニメは世界の8割が日本から発信されると云われ、有名主人公は世界の人気者だ。欧米では、日本の漫画を読んで育った世代が成人し、日本製のアニメに熱中している。この世代に与えた影響はハリウッド映画やビートルズに匹敵すると云う。

”和食”もクールだが、街頭の”日本食”はもっとクールだ。人気があるのが、すししゃぶしゃぶ焼き鳥日本酒枝豆カップラーメンなど。”回転ずし”や”居酒屋”は接客システム付きや装置付きで輸出されている。

ところが問題がある。世界中に多くの日本食レストランが展開しているが、その大部分は日本人以外の外国人が経営している。たとえば、ロシアのぺテルスブルグには、3百店もの日本食レストランがある。しかし日本人経営の店は数えるほどしかない。多くは中国人、韓国人、ロシア人が経営している。味は「これが日本食か?」と呆れるほど、かけ離れている。この傾向はロシアだけではない。米国や欧州でも同じだ。

どうして日本人経営のレストランが少ないか? 出店する日本人が少ないから。理由はこれに尽きる。

海外在住者が少ないわけではない。現地に同化する日本人も増えてきた。だがそれらの日本人が独立起業する例は少ない。多くは会社に勤務し、あるいは外国人と結婚して、現地に住んでいる。中国人や韓国人のように、初めから現地に骨を埋める覚悟で出国する人間は少ない。

同じことはレストラン以外の商売についても云える。今年のはじめ、アイルランドの西海岸に長期逗留する機会があった。もともと日本人の姿を見ることが少ない国だが、特に大西洋側の西海岸では、日本人の影がない。スーパーマーケットで見回しても、入手できる日本食品は醤油ぐらい。

ところが、日本の食品が入手できないかといえば、そうでもない。中国人経営の店に行けば、中華料理の材料とともに、日本の食品が売られている。味噌醤油はもちろん、日本製の調味料、インスタントもの、乾麺、日本酒など、ひととおりのものは手に入る。日本人がいない地域だが、だれかが買っているのだろう。それで商売が成立している。

食品以外の商品になるとメードインジャパンは強い。自動車のシェアは高いし、カメラは圧倒的に強い。時計、電気製品、IT製品でも日本製商品は一定のシェアがある。機械の内側の部品で見ればもっと多いだろう。だがあくまで商品のみ。販売、サービスを含んだ流通の分野では、日本人の存在感はまったくない。この状況は多かれ、少なかれ、地球上のどこへ行っても同じだろう。

なにもしなくても、見たり、触ったりすれば、わかる商品もある。だが多くの商品は、仕入を計画し、店頭に陳列し、お客に説明し、アフターサービスを加えて売れていく。それができる人間がいないとすれば、外国人にとっては、”クールジャパン”も来日しなければ実感できない

クールジャパンの効果をねらうなら、製品や作品を宣伝するだけでなく、海外展開に流通・サービスを加えることを考えなければ、経済効果が限定されてしまう。まして日本人の接客技術の高さは世界のだれもが認めているのだ。

特に、志ある家族経営型店舗に、海外移転の道を開きたい。駅前商店街は衰退するばかり。業種や業態を変えてみても、全体市場が縮小する限り、立ち直りはむずかしい。クールジャパンがきっかけになることを望む。