過疎高齢化社会の無人ショップ構想

[過疎高齢化]

TBSが「ガイアの夜明け」で”自動販売機戦争”を取材していた。その番組の後半で、過疎地の商店の店先に自販機を搬入するシーンがあり、ここで登場するのが原田英明。東北一帯を販売圏とする仙台の独立系自販機設置業者「デリコ」の社長である。

番組では触れていないが原田も東日本大震災の体験者である。その日、原田は新しい自販機の設置先を求めて、自転車を走らせていた。激しい揺れを感じて、自転車を止め、再び走り始めたとき、後方からまっ黒な雲のようなものが近ずいてくるのを見た。それが津波だった。原田は必死に自転車を漕いで間一髪逃げることができた。しかし会社の被害は大きかった。自販機は設置基準が厳しく、あれだけの揺れでも、転倒した自販機は一台もなかった。だが、津波にもっていかれたり、水没したりして使用不能になったもの、それから放射能汚染地域内で放置せざるを得なくなった自販機など、設置していた4千台のうち、3百台が使用不能になった。

残りの自販機は電気が復旧した翌日から忙しくなった。お茶と炭酸飲料が次々に売れていく。道路とくるまが使えなくなった地域では、自販機が被災者のライフラインになったのである。しかし飛ぶように売れる商品の補充がつかない。不眠不休で働いた。原田は初めて自販機が住民の生活インフラであることに気がついた。

昔は、村の隅々まで、物売りが商品を売りに来た。ところが、くるまが普及すると、いつのまにか、店がお客を待つようになった。次に過疎化で商圏が薄く広くなった。コンビニが普及したが、足のない高齢者には遠すぎる。宅配サービスは人件費が高くつく。

自販機の業界も激しい競争が続いている。自販機にはオーナーと称する設置場所提供者がいる。オーナーは設置場所を提供し、1台につき月4千円から5千円の電気代を負担する。そのかわりに売上金額の10%から30%を受け取る。すなわち、自販機1台につき、月間3万円以上の売上がなければ、ペイしないことになる。自販機を設置するのは、キリン、アサヒ、伊藤園などの大手飲料メーカーと、デリコのように、自由に飲料を仕入れ、それを自販機で売る独立系の自販機設置業者である。

自販機の商圏は狭い。固定客はほとんどいない。客の大部分は、目前に自販機があるから買う、つまり通過客だ。だから自販機設置業者は客が多く集まる場所、商店街や、事務所、工場の社員食堂等に、自販機を設置する。そのような場所では、同じ場所に、異なった種類の自販機が2台も3台も設置されている。客がどの自販機を選ぶか、自販機間で激しい競争になる。設置業者はライバルの売れ行きだけが気にかかり、お客様が見えなくなってしまう。

原田も業界で競争に揉まれてきたのだが、東日本大震災で初めて自販機の役割に気が付いた。そういう目でみると、意外なことに、自販機にも固定客がいる。それが付近にコンビニさえを見当たらない過疎地域。ここは同時に高齢化コミュニティでもある。毎日のようにお茶を買いにくるおばあちゃん。農仕事の合間にコーヒーを買いにくるおじいちゃん。

こうして原田に新しいアイデアが芽生えた。ドリンクだけでなく、お菓子、おつまみ、生活必需品を自販機で売るというアイデアである。原田は自販機を改造し、飲料のほか、チョコレートやドーナツ、袋入りのお菓子、それからインスタントカレーも、コインで購入できるようにした。この機械には、商品別の残数をカウントする装置があり、本部に自動的に報告するようになっているので、販売員が無駄に足をはこぶ必要がない。適切な時期に巡回、補充が可能だ。また自販機にカメラを装置して通学路に設置すれば、交通安全や犯罪防止にも役立つ。

「ガイヤの夜明け」は、原田の改造第一号機が、宮城県の僻村に、搬入される様子を映していた。ひとり暮らしのおばあちゃんや子供たちが、嬉しそうに、買いにくる。

原田は、ゆくゆくは過疎地域に、さまざまな生活必需品を販売する無人ショップを設置したいと言う。各種の自動販売機、洗濯機や乾燥器など、現在でもそのまま無人ショップに設置できる機械も少なくない。さらに、コインを入れたら商品が出てくる機械だけでなく、コインを入れたら翌日商品が届くシステムにしたら、もっと商品が増える

過疎と高齢化の時代は確実に到来する。売る側にも智慧が求められるが、地方自治体も、業者と協力し、新しいしくみを工夫してほしい。